不同意わいせつ(痴漢)の概要
特定の状況下で、他人の同意を得ることなく他人の性的な部位に触れたり性的な行為(性交等は除く)に及んだりすると、不同意わいせつの罪に問われることとなります。
「不同意わいせつ」に似た態様の犯罪として「痴漢」が挙げられますが、これは俗称で、同意のないわいせつ行為や痴漢行為を処罰するための法律・罪名は以下の三つです。
- 迷惑防止条例違反
- 不同意わいせつ
- 児童ポルノ禁止法違反
元々刑法で定められていたのは「強制わいせつ」という名称の罪でした。
「強制わいせつ」という罪名だった時の構成要件は、「暴行または脅迫を用いて、わいせつな行為をした(13歳未満の相手に対しては手段としての暴行・脅迫がなくても単にわいせつな行為をしただけで成立)」というものです。
これが2023年に法改正され、罪名は「不同意わいせつ」に、構成要件はかなり複雑なものに変化しました。
大雑把に言うと、「いくつかの特定の状況下で、被害者が同意していないのに、わいせつな行為をした(被害者が16歳未満で、加害者が5歳以上年長である場合は、特定の状況下でなくても、被害者の同意があったとしても、単にわいせつな行為をしただけで成立)」です。
一方、迷惑防止条例違反は不同意わいせつとは規定の仕方が異なり、不同意わいせつは成立しなくても迷惑防止条例違反には当たる、ということもあります。
また、被害者が「児童」に当たる場合は、所定の要件を満たすことで児童ポルノ禁止法違反に当てはまってくることもあります。
士道法律事務所に持ち込まれる不同意わいせつ(痴漢)の犯行態様は主に以下のものです。
(A)駅、路上、飲食店等で女性の胸やお尻に触ったり抱きついたりする
(B)会社の同僚や知人女性と飲酒してキスをしたり身体に触ったりする
(C)マッサージ店でスタッフに手淫を求めたり胸や陰部に触ったりする
(D)性行為に及んでいる友人カップル等に乱入参加する(性交等なし)
不同意わいせつの約8割が痴漢類似態様の(A)。
約1割が(B)で、(C)や(D)はごくごく稀に発生します。
どの類型であるかによって加害者と被害者の関係性(初対面の相手か、元からの知り合いか等)はほぼ決まっており、類型によって示談の難易度等も変化します。
不同意わいせつ(痴漢)に関するデータ
士道法律事務所の過去の取扱事例におけるデータは以下のとおりです。
加害者・被害者の属性
加害者の性別は男性が100%、女性が0%。
被害者の性別は男性が約2.5%、女性が約97.5%。
被害者の約9%が18歳未満で、この場合は父親または母親が交渉窓口となります。
交渉拒否率
約12.7%
被害者の連絡先開示がなされず、交渉開始自体が不可能なのは8件に1件程度の割合です。
なお、「痴漢(迷惑防止条例違反)」と「不同意わいせつ」では交渉拒否率が若干異なり、
「痴漢(迷惑防止条例違反)」の方が交渉を開始できる率が高くなっています。
示談成立率
約79.5%(交渉可能な事案では約91.2%)
不同意わいせつ・痴漢(迷惑防止条例違反)事件全体の示談成立率は約79.5%です。
一方、交渉拒否のパターンを除いて、士道法律事務所の弁護士が相手方と交渉を開始できた場合の示談成立率は約91.2%です。
交渉可能だった場合の「痴漢(迷惑防止条例違反)」と「不同意わいせつ」の間の示談成立率に差はほとんど見られず、どちらも91%前後となっています。
処分内訳(不起訴率)
| 非事件化 |
約6.3% |
| 不起訴 |
約81.3% |
| 略式 |
約3.1% |
| 公判 |
約9.3% |
不同意わいせつ(痴漢)事案は刑事事件化する前に終了あるいは不起訴の「前科が付くことなく終結」の割合が極めて高く、全体の87%以上を占めます。
示談成立率と比較してみると、示談成立率は約79.5%であるのに対して非事件化・不起訴率は約87.6%で非事件化・不起訴率の方が高い。
これは
「示談不成立でも不起訴になっているケースが8%程度存在する」
ということを意味します。
一見不可解とも思えるこの現象の発生原因特定は比較的容易で、
- 不同意わいせつには罰金刑の設定がないから(=略式起訴が選択できない)
- 不同意わいせつの構成要件を複雑にした関係で検察官が起訴を躊躇している
と士道法律事務所では推察しています。
不同意わいせつ(痴漢)の固有の特徴
不同意わいせつと痴漢の二類型がある
盗撮の場合、「性的姿態等撮影」という新しい罪名でほぼ全てのケースがカバーされるようになったため、従前の「迷惑防止条例違反」が適用されるケースは極めて限られたものとなってきています。
一方、不同意わいせつは法改正により構成要件を複雑にし過ぎたため、「不同意わいせつで処理するには微妙なところがあるが、迷惑防止条例違反なら構成要件該当性が明確になる」というように使い分けがなされているケースが散見されます。
法定刑は
| 不同意わいせつ |
6月以上10年以下の拘禁刑 |
| 痴漢(迷惑防止条例違反) |
6月以下の拘禁刑、または50万円以下の罰金 |
と極端な差があり、この法定刑の差からくるイメージ的なものや行為態様から解決金の額にも開きが出てくる傾向にあります。
また、
「警察での捜査開始時点では罪名が不同意わいせつだったが、示談の成立その他の事情を鑑みて創建時には迷惑防止条例違反に罪名が落とされた」
というケースもごく稀にですが存在しています。
示談不成立でも不起訴になりやすい
前述のとおり、特に不同意わいせつは示談成立率より不起訴率の方が高く出ており、これは示談が成立していない状態でも不起訴となったケースがそれなりに存在していることを意味します。
その理由としては以下の二つが考えられます。
- 不同意わいせつには罰金刑の設定がないから(=略式起訴が選択できない)
- 不同意わいせつの構成要件を複雑にした関係で検察官が起訴を躊躇している
このあたりの理屈について、士道法律事務所では多数の過去の解決事例から、いかなる事情、どういう思惑で、現場の処理がどういう風になされているのか、ということをかなり綿密に分析しています。
詳細は法律相談を実施した際にご説明させていただくとして、重要なのは
「不同意わいせつは示談不成立でも不起訴となるケースが多く見られる」
という現実です。
これは不同意性交等の罪においてより顕著に出てくる現象ですが、不同意わいせつでも一定のケースで同じ現象が発生しているということです。
つまり、示談が成立しなかったとしても、不起訴に至るプロセスを正しく理解して適切な手を打っていけば、比較的高い確率で不起訴処分が期待できる、ということです。
ただし、だからといって敢えて示談を成立させず、そのまま不起訴を狙うというのは悪手と言っていいでしょう。
起訴前には検察官の手元にどんな証拠が揃っているかを知ることはできないので、まずは示談成立でのより確実性の高い不起訴を目指し、被害者が示談交渉において過剰要求を出してきて譲歩しないとか、途中から全く電話に出なくなったとかの状況下においてのみ、示談以外の手段で不起訴を目指すべき、ということになります。
刑罰・条文
迷惑防止条例違反
【刑罰】
6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
【条文】
第六条 何人も、次に掲げる行為をしてはならない。
一 人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、衣服等で覆われている内側の人の身体又は下着を見、又は撮影すること。
二 みだりに、写真機等を使用して透かして見る方法により、衣服等で覆われている人の身体又は下着の映像を見、又は撮影すること。
2 何人も、公共の場所又は公共の乗物において、次に掲げる行為をしてはならない。
一 人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、衣服等の上から、又は直接人の身体に触れること。
二 前号に掲げるもののほか、人に対し、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような卑わいな言動をすること(前項又は第四項の規定に違反する行為を除く)。
3 何人も、住居、浴場、便所、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所における当該状態にある人に対し、次に掲げる行為をしてはならない。
一 人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、姿態を見ること。
二 みだりに、姿態を撮影すること。
4 何人も、第一項各号又は前項第二号の規定による撮影の目的で、写真機等を人に向け、又は設置してはならない。
第十五条 次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。
一 第六条第一項各号又は第三項第二号の規定に違反して撮影した者
二 第十条第一項の規定に違反した者
2 常習として前項の違反行為をした者は、二年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。
第十七条 次の各号のいずれかに該当する者は、六月以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
一 第二条の規定に違反した者
二 第六条の規定に違反した者(第十五条の規定に該当する者を除く。)
2 常習として前項の違反行為をした者は、一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。
大阪府公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例
https://www.pref.osaka.lg.jp/houbun/reiki/reiki_honbun/k201RG00001067.html
不同意わいせつ
【刑罰】
6月以上10年以下の拘禁刑
【条文】
第百七十六条 次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、六月以上十年以下の拘禁刑に処する。
一 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
二 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。
四 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。
五 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕がくさせること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
七 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。
2 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、わいせつな行為をした者も、前項と同様とする。
3 十六歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。
刑法
https://laws.e-gov.go.jp/law/140AC0000000045
児童ポルノ禁止法違反
【刑罰】
5年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金
【条文】
第二条 この法律において「児童」とは、十八歳に満たない者をいう。
2 この法律において「児童買春」とは、次の各号に掲げる者に対し、対償を供与し、又はその供与の約束をして、当該児童に対し、性交等(性交若しくは性交類似行為をし、又は自己の性的好奇心を満たす目的で、児童の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。以下同じ。)を触り、若しくは児童に自己の性器等を触らせることをいう。以下同じ。)をすることをいう。
一 児童
二 児童に対する性交等の周旋をした者
三 児童の保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)又は児童をその支配下に置いている者
3 この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
一 児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態
二 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
三 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀でん部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの
第四条 児童買春をした者は、五年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金に処する。
児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律
https://laws.e-gov.go.jp/law/411AC0100000052/