前回の「弁護士が解説する刑事事件の流れ(7)~被告人勾留・公判~」では判決言渡し前までの公判手続を説明しました。
今回は刑事訴訟の締め、判決について述べます。
弁護人の「最終弁論」までの手続が完了すると刑事訴訟の審理は結審し、あとは判決言渡しを残すのみとなります。
結審までの手続を行う日と判決言渡しの日は原則として別日となります。
裁判官は、結審までに現れた全証拠に基づいて有罪無罪、刑の軽重を決するという建前があるからです。
判決の種類は、
「無罪判決」
「執行猶予判決」
「実刑判決」
の三種類となります。
まず「無罪判決」について。
何らかの罪を犯したとして起訴されたものの、審理の結果、有罪とは認められないこととなった、という判決です。
いかなる理由で無罪となるのかについては、
・構成要件に該当しない(刑法等で規定された罪の要件の一部または全部を満たさない、誤認逮捕や冤罪も含む)
・違法性が阻却された(正当防衛に該当する等)
・責任が阻却された(心神喪失に該当する等)
といったものがあります。
どういう形であれ、無罪となれば当然刑罰は受けませんし、前科がつくということもありません。
ちなみに、日本の刑事訴訟の有罪率は99.9%と言われています。
直近平成27年の裁判所の統計データから紐解いてみてもそう大差ない数値が出てきます。
データをどう扱うかによって若干の変動は生じますが、一部無罪の判決も考慮して単純に無罪件数を総事件数で割ります。
【地方裁判所】
無罪件数70件/事件総数74,111件=無罪率0.094%(有罪率99.906%)
【簡易裁判所】
無罪件数6件/事件総数7,951件=無罪率0.075%(有罪率99.925%)
http://www.courts.go.jp/app/files/toukei/616/008616.pdf
http://www.courts.go.jp/app/files/toukei/619/008619.pdf
次に「執行猶予判決」について。
有罪判決の一類型ですが、直ちに刑が執行されるわけではない、という特徴があります。
例えば「被告人を懲役2年に処す。ただし、その刑の執行を4年猶予する」という判決言渡しがなされたとします。
この場合、すぐに刑務所に放り込まれるわけではなく、4年の猶予期間が与えられることとなります。
判決確定から4年間、何事もなく平穏に過ごせば刑務所に行かずとも済みます。
ただし、4年以内に再び何らかの罪を犯した場合、高確率で猶予されていた刑が執行されます。
上記の例で、判決確定から3年経ったところで万引きをして捕まり、懲役6月の判決を言い渡されたとします。
その場合、執行を猶予されていた前の2年も含めて、2年6か月刑務所に行かねばならなくなるということです。
再度の執行猶予が認められるかどうかについては少々細かい話となるのでここでは割愛します。
執行猶予判決の場合、最低でも猶予期間中は細心の注意を払って生活しなければならない、ということは肝に銘じておいてください。
ちなみに、執行猶予期間中に軽微な交通違反をして反則金を支払うことになっても執行猶予が取り消されるわけではありません。
もっとも、重い違反を犯して所謂赤切符を切られたらその限りではありませんので、自動車の運転にも十分気を付けましょう。
そして「実刑判決」について。
刑の種類としては、罰金刑、懲役刑、禁固刑、拘留刑、死刑があります。
いずれも実際に刑罰を受けることとなる判決です。
罰金刑の場合は、刑事裁判が終わってから定められた期限までに罰金を納付することになります。
期限内に納付しないと資産の差押を受けたり、労役に従事させられたりします。
なお、罰金刑にも執行猶予が付くことはありますが、実際には極めて稀です。
懲役刑、禁固刑、拘留刑は一定期間刑務所に収監される刑罰です。
刑務作業の従事義務があるのが懲役刑、ないのが禁固刑・拘留刑です。
禁固刑と拘留刑の違いは期間(禁固刑:1か月以上20年以下 拘留刑:1日以上1か月未満)です。
刑事裁判終了後、一旦拘置所に移されて、その後所定の刑務所に移送されることとなります。
死刑はその名のとおり、死をもって罪を償う刑罰です。
拘置所に収監されて、死刑執行の日まで未決囚としての状態が続くこととなります。
次回は「上訴」の手続について見てみます。