弁護士コラム

賃借人の立ち退きについて

2017.10.16

今回は賃貸物件の立ち退きについてのお話を。

賃料を滞納する、他の住民と揉め事を起こす、部屋を雑に扱ってゴミ屋敷のようにしてしまう。
問題のある賃借人にどうやって退去してもらうかというのは大家、賃貸人にとって悩みの種となります。

賃貸借契約書のひな型には、大体「賃借人が賃料の支払いを〇か月(2、3か月となっていることが多いです)怠ったら契約を解除する」という条項が入っています。
では、これを1か月や2か月に設定しておいて、実際にその分の滞納があったら契約を解除できるのか。
答えは「ノー」です。

賃貸人の方から賃貸借契約を解除するには「信頼関係を破壊するに足る債務不履行が必要」という法理が判例上確立しているからです。
例えば「1か月でも滞納があったら即解除」という条項が契約書にあったとしてもこれは無効であり、契約解除の是非は信頼関係を破壊する事情の有無で決まります。

賃料不払いの場合であれば、3か月分以上の滞納があることが信頼関係破壊の目安となります。
騒音の場合は数か月以上夜中に騒音を出し続ける等。
ペットの飼育の場合はペット飼育禁止条項に反してペットを飼育し、かつ悪臭騒音等の実害を発生させたこと等が求められます。
それなりに重い違反がなければ賃貸借契約は解除できないということです。

契約解除ができるだけの違反があったとしても、賃借人が任意で出て行かない場合、最終的には訴訟や強制執行といった手段を取ることを考えなくてはなりません。
場合によっては、未払い賃料や原状回復の費用を回収できないどころか、家主側が転居費用を用意して「賃借人に退去して『いただく』」という事態になってしまうことも。

不誠実な賃借人に対して訴訟提起し、勝訴判決を得て強制執行をかけること自体はさほど難しくありません。
ただ、それにかかる弁護士費用や申立費用をどうするのかという問題は賃貸人に重くのしかかります。
そういった費用は法的にも現実的にも賃借人から回収することが難しいからです。

近年、保証会社による保証を要求する貸主が増えているのはこういった実情を踏まえたものといえるでしょう。
契約締結時に賃借人の人柄を見極めて、確実な保証人を要求すること。
それが賃貸借トラブルに対する賃貸人側の重要な対策となります。

(『蒼生 2017年10月号』掲載記事)