弁護士コラム

時効について②

2019.09.13

今回は刑事の時効について。

刑事の時効には

『刑の時効(刑の言渡しから一定期間経過することで刑の執行が免除される)』

『公訴時効(犯罪終了から一定期間経過することで公訴提起ができなくなる)』

の二種類がありますが、一般に『刑事の時効』と言えば後者を指します。

公訴時効が完成するまでの期間は問題となる罪の重さで決まります。
最短で一年、最長で三十年。
殺人や強盗致死といった特に重大な犯罪については法改正で公訴時効が撤廃されたため、これらの罪に当たる場合は何年経っても時効が完成しません。

公訴時効は一定の事由発生で停止することがあります。
簡単に言うと

「犯人または共犯者が公訴提起されたとき」

「被疑者が国外逃亡しているとき」

です。

刑事裁判ドラマなどで、時効完成間際に犯人を逮捕できた、というシーンが出てくることがあるのでご存じの方もいるかもしれません。
もっとも『逮捕』では公訴時効が停止しないので、時効完成の2、3週間前には逮捕しておかないと結局間に合わなくなる可能性が出てくるのですが。

公訴時効制度に対しては「犯人の逃げ得を許すのはおかしい」という批判の声が昔から上げられてきました。
このような制度が存在する根拠についてはいくつかの学説があります。
時間の経過で処罰感情が減少する、証拠の散逸や経年劣化で事実認定が困難になる、事件の関係者がいつまでも犯人と疑われる状態を解消する必要がある、などなど。

他国に目を向けると、例えばドイツでは謀殺罪の時効が何度も延長された末に時効自体が廃止されました。
これはナチス犯罪に対する諸外国の圧力を受けたものと言われています。

アメリカでは性犯罪の事件現場に残されたDNAに人格権を与えて起訴することで時効を停止する制度が作られています。

時効完成後に真犯人が名乗り出たことで真相が明らかとなって、犯人扱いされていた人の冤罪が晴れたり、民事上の損害賠償が認められたりしたケースもあり、時効の緩和に否定的な声もあります。
しかし、時効の廃止や延長、時効停止の新制度策定を求める声は強く、少しずつ制度が見直されています。

今後さらに技術が進歩して捜査手法が革新的に変化すれば、時効は教科書の中だけに存在する過去の制度となってしまうのかもしれません。

(『蒼生 2019年7月号』掲載記事)