弁護士コラム

刑事事件の身柄拘束

2016.10.14

刑事事件の被疑者・被告人となったときに重くのしかかってくるのが身柄拘束の問題です。

軽微な事案で証拠隠滅や逃走のおそれが低ければ任意の事情聴取という形で普通に社会生活を送ったまま捜査を進めてもらうこともできますが、そうでなければ逮捕・勾留という措置が取られます。

原則として、逮捕で48時間、被疑者勾留で10日間(延長で最長20日間)。
その後起訴されて被告人勾留に切り替わると、裁判が終わるまでの数か月間、留置場や拘置所で生活することになります。
当然仕事には行けなくなり、家族等との連絡手段は平日30分の面会か手紙のみ。
ネットも使えず、服や下着の替えにも事欠きます。
まともな感覚の人なら相当苦痛を感じる環境と言えるでしょう。

身柄解放手続としては「保釈」があり、
①起訴後に
②裁判所の保釈許可を得て
③保釈金を納付
すれば、外に出ることができます。
保釈金の額は一般的には150~300万円程度ですが、場合によっては億を超えることも。
後で返還されるとはいえ、それなりにまとまった金額をすぐには用意できないという人の方が多いでしょう。

身柄拘束されている人は何故か「外にいる家族が自分のために尽力してくれる」と思い込んでいることが多いのですが、実際には本人と外の家族との間には相当な温度差があります。
家族にも生活があるのでそう頻繁に面会に来られませんし、普通は保釈金もそう簡単には用意できないので、大半は裁判が終わるまで身柄拘束されたままとなります。

このように、刑事事件の身柄拘束処分は普段私たちが当たり前のように享受している自由を奪われるという相当厳しい処分で、それを解くのも容易ではありません。
初めて逮捕・勾留された人は、5~6日目あたりからだいぶ精神的に参ってくるようです。
中には、何度も犯罪行為を繰り返して、身柄拘束されることにも手慣れた印象を受ける被疑者・被告人もいますが、本当に恐ろしいのは、感覚が鈍磨して身柄拘束の環境に慣れてしまうことなのかもしれません。

身柄拘束されるようなことをしないというのが当然に第一ではありますが、そのような事態に至ってしまったときには、その不自由さや苦痛を胸に刻んで、決して忘れないようにして欲しいものです。

(『蒼生 2016年10月号』掲載記事)