弁護士コラム

未払い残業代請求の流れ(9)~残業代請求のポイント~

2016.09.02

前回記事「未払い残業代請求の流れ(8)~調停・和解と審判・判決~」で労働審判・訴訟の終結まで辿り着きました。
これで未払い残業代の流れを一通り説明してきたことになります。

最後に、これまで説明してきた未払い残業代請求のポイントをまとめます。

(1)未払い残業代が発生しているかどうかのチェックポイントは?

 「1日8時間以上または週40時間以上働いている」
「22時以降に働いている」
「週に1日以上の完全な休みがない」

という勤務状況で、

 「給与明細に『残業代』『時間外手当』等の項目がない」
「『残業代』『時間外手当』の項目はあるが毎月定額で金額が低い」
「実際の勤務時間と異なる時刻にタイムカードを切らされる」
「そもそも会社にタイムカードがなく、まともに労働時間を管理していない」

といったことがあれば、とりあえず弁護士に相談してみましょう!

(2)未払い残業代を払ってもらうためにまずは何をすればいいの?

最初は交渉を試みて、それで駄目なら労働審判や訴訟を検討するのが常道です。
通知書の内容でその後の流れが大きく変わることもあるので、最初の一手としての通知書はとても重要です
労働問題に強い弁護士が作る通知書はその点も踏まえた工夫がしてあるので、なるべくそういう弁護士を選んで交渉を依頼しましょう。

(3)交渉ではどんな証拠が必要になってくるの?

タイムカードをつけている会社であれば、会社にタイムカードの開示請求をするので、労働者がこれを用意する必要はありません。
ただし、会社がブラック企業で信用できない場合、事前にタイムカードのコピーを取っておいた方がよいでしょう。

会社にタイムカードがない場合、労働者側で時間外労働の事実を示す証拠を用意する必要があります。
一例を挙げると、

 ・退社前に会社のパソコンから送ったメール(できれば業務に関するメール)を印刷しておく。
・印刷日時の印字されたコピー資料等を保管しておく。
・「今仕事が終わった」といった家族や友人とのメールやLINEを保存しておく。
・何時から何時まで働いた、どういう仕事をした、というメモをつけておく。

といったところです。
上にあるものほど証拠としての価値は高いです。

その他、雇用契約書や上司からのメール等も証拠や交渉材料となり得るので、なるべく形に残るものを取っておきましょう。

(4)裁判所を使った手続にはどういうものがあるの?

約3か月程度で終わる「労働審判」と、半年~1年程度を要する「訴訟」があります。
「労働審判」は、短期間で解決するというメリットがある反面、適した事件がある程度限定される、十分な検討時間がないまま和解に流されることもある、異議申立で訴訟に移行すればかえって手続が長期化する、といったデメリットがあります。

「労働審判」の場合は「審判」「訴訟」の場合は「判決」という、強制力のある結論を出すことを最終的な目標としています。
ただし、いずれも大半のケースが「和解」で終結します。

(5)和解にはどういうメリットがあるの?

「審判」や「判決」で決着する場合、言渡し時までその内容はわかりません。
つまり、勝てると思っていても予想に反して不利な結論が出る可能性があります。
また、訴えを認めてもらえたとしても、実際にこれを回収するには「強制執行」という手続を別途取る必要があります。
しかし、「強制執行」は失敗に終わることが多く、せっかくの「審判」「判決」も絵に描いた餅となることが少なくありません。

一方、「和解」の場合、請求額から減額はされますが、ほぼ確実な支払いが期待できます
また、早い段階で紛争を終結させられる紛争の直接の対象以外のこともまとめて解決できる、といった特徴もあります。

9回に分けて未払い残業代請求の問題を取り上げてみましたが、いかがでしょうか。
当事務所には多数の労働問題の相談が寄せられていますが、法律相談に来ている人は氷山の一角に過ぎず、残業代請求を諦めてしまっていたり、そもそも残業代を請求するという発想がない人が世の中には相当数いるという印象を受けます。

 未払い残業代請求は、何ら後ろめたいものでも、遠慮すべきものでもありません。
本来、会社が支払うべきものをごまかしていたに過ぎず、適正な労働の対価は労働者に支払われるべきです。

当事務所に依頼された大半の事案では、150万円~300万円程度の残業代を実際に回収しています
未払い残業代を請求しなければ、会社にこれだけのお金を掠め取られていたのです。

全ての労働者が適正な対価を受け取ることができるように。
士道法律事務所は依頼者とともに闘ってまいりますので、労働問題でお悩みの方はお気軽にご相談ください。