弁護士コラム

交通事故の後遺障害

2015.10.09

交通事故に遭ったとき、「後遺障害」という問題が出てくることがあります。

例えば、事故に遭う前の体の状態を100とします。
これが事故による捻挫や骨折で60くらいの状態になったとして、治療と時間の経過につれて、70、80と回復していきます。
そのまま100に戻れば何の問題もないのですが、90くらいから回復しない、例えば身体の一部が欠損したままだとか、関節が一定範囲以上動かないとかの状態で停滞してしまうことがあります。
この状態を「症状固定」と言い、回復しなかった部分については、「後遺障害(≒後遺症)」として慰謝料による解決を図ることになります。

4~5か月以上通院している人が元の100の状態に戻ることは稀で、ほとんどの被害者が治療終了後も痛みや関節の動かしづらさといった何らかの症状を訴えています。
しかし、このような「後遺症」があっても「後遺障害」が認定されることはさほど多くはない、というのが実情です。

後遺障害には重い方から順に1~14級の等級がありますが、どういう症状が何級に該当するかということは細かく定められており、例えば14級6号は、「1手のおや指以外の手指の指骨の一部を失ったもの」となっています。
最下級の14級ですら、このくらい重いものが要求されているということです。

加えて、「痛み」や「動かしづらさ」というのは、あくまで被害者本人の主観による「自覚症状」というもので、CT等で客観的に示すことができません。
医学的に症状や原因を特定できる「他覚症状」でないと、「後遺障害の○級に該当する」という判断はなかなか下してもらえないのです。

認定の際のポイントのようなものはあるため、事故直後や通院の初期段階で交通事故に強い弁護士に相談すれば、治療の際に医師に何を伝えればよいか等のアドバイスを受けることは可能です。
しかし、それでも認定が得られるケースは多くなく、後遺障害に至らない程度の後遺症を抱えた依頼者を見るたびに歯がゆい気持ちになります。

今より医学が進歩して、現在の技術では明確にならない症状や因果関係も立証できるようになれば、交通事故被害者の苦悩を和らげることができるはずなのですが…交通事故の解決に携わる者として、一日も早くそんな日が来ることを願う次第です。

(『蒼生 2015年10月号』掲載記事)