弁護士コラム

契約書のお話

2013.10.24

契約書は日常生活の様々な場面で登場します。
車を買うとき、生命保険に加入するとき、消費者金融でお金を借りるときなどなど。
会社員や自営業者の人であれば、商品の仕入や工事の請負など、仕事の関係で契約書に接する機会は更に多いでしょう。

さて、「契約は契約書に署名・押印することで成立する」というのは正しいでしょうか。
「署名・押印のある契約書があれば契約に従う義務が生じる」というのはどうでしょうか。

厳密に言えば、これらはいずれも誤りです。
民法で規定された契約の大半は「合意」によって成立します。
合意の有無が問題なのですから、契約書の作成は契約成立の条件ではないし(保証契約等の特殊な契約を除く)、何らかの事情で契約書だけ存在していても合意がなければ契約は成立していません。
また、たとえ当事者が合意して契約書まで作成していたとしても、違法な高金利の貸金契約や公序良俗違反の契約(愛人契約など)は違法部分が無効となるので、その契約内容に従う義務は生じません。

では、「契約書」とは何なのか。
端的に言えば、「ある合意の成立を示す資料」、つまり「証拠」です。
ただの証拠ですから、契約書自体から権利や義務が発生するわけではないし、契約書を破ったり焼いたりしても権利や義務は消えません。

契約書が意味を持つのは契約の内容に争いが生じたときで、例えば裁判になれば契約書その他契約に関する文書の有無が勝敗を分けます。
特に、署名や押印のされた契約書があると合意の成立が推定され、「内容を確認しなかった」「意味がわからなかった」「偽造された」といった言い訳はまず通用しなくなるので、契約書を作成する際には内容にきちんと目を通して十分注意した上で署名や押印をする必要があります。

ちなみに、弁護士は、事件を受任する際には受任範囲や報酬を明記した契約書を作成することを義務付けられています。
契約書の重要性を誰より熟知しているはずの職業人ですから、義務規定がなかったとしても当然作成すべきでしょう。
ところが、性格的にルーズであったり、昔ながらのなぁなぁで事件を受けたりしている弁護士の中には、契約書の作成を怠る人が少なからずいます。
虫歯だらけの歯医者、ボサボサ髪の美容師のようなもので、プロとしての信頼性に欠けこと甚だしいと思うのですが…

(『蒼生 10月号』掲載記事)