今回は、「行政事件」について。
この原稿を書いている平成25年3月現在、1票の格差に関する選挙無効確認訴訟が何件か提起され、選挙区割りの違憲を認める高裁判決も出ています。
これは国等を相手に行政に関する事柄を争う訴訟で、民事訴訟、刑事訴訟とは別の広義の「行政訴訟(事件)」と呼ばれるものです。
民事事件や刑事事件のように弁護士が日常よく扱う類のものではなく、行政法が司法試験の必須科目から長らく除外されていたため、行政法や行政事件に全く触れたことがないという弁護士も珍しくありません。
国や地方公共団体を相手取る訴訟ということでマスコミ等には大きく派手に取り上げられることも多いのですが、法曹関係者からするとどちらかといえばマイナーなジャンルで、行政事件に対応できる弁護士はさほどいないというのが実情です。
しかも、行政事件は民事事件と違って、基本的にお金が動くことがない事件です。
例えば、知事のなした開発許可を取り消すとか、換地処分の無効を確認するとかが訴訟の目的となりますので、勝ってもお金は動きません。しかも、刑事の国選事件のように国が弁護士の費用を払ってくれるわけでもありません。
つまり、勝とうが負けようが依頼者である原告が弁護士費用を負担せねばならないことになるのですが、原告も十分な費用を捻出できないことが多いため、弁護士有志が手弁当で参加するということがしばしばあります。
こういった構図や背景事情から、行政事件を扱う弁護士は「市民のために闘う弁護士」という肩書が最も似合うのではないかと個人的には思っています。
中には、「行政事件で名前を売って顧客獲得に繋げる!」と公言している方もいますが、それはそれで経営戦略としてアリではないかと。
冒頭の選挙訴訟では、高裁レベルとはいえ違憲を認める1つの判決が出ました。これまでに最高裁で選挙無効の判決が出たことはなく、「違憲」の判決が2例、「違憲状態」の判決が3例だけです。
一連の訴訟でどういう判決が出るにせよ、今後の選挙運営に影響を与えることは間違いないでしょう。
民主主義の護り手として闘いを挑む彼らの執念は実るのか、訴訟の経過を見守ってみたいと思います。
(『蒼生 4月号』掲載記事)