今回は刑事の示談の中身に触れてみます。
示談の流れを大雑把にまとめると、【交渉】⇒【示談書の作成】⇒【合意内容の実行】となります
特に重要なのが「示談の内容としてどういう条件を定めるか」で、
①示談金の金額
②宥恕文言
③被害届や告訴の扱い
④債権債務不存在確認
という4つの要素が示談の価値を大きく左右します。
①は被害者と加害者がいくらで納得するかというだけの話なのであまり触れずともよいでしょう。
②の『宥恕』というのは『許す』という意味です。
「被害者が加害者から謝罪と賠償を受けることで加害者の処罰を希望しなくなっているか」ということを検察官は結構重視します。
この宥恕文言の有無で起訴か不起訴かが分かれることもあり、弁護士が示談書を作るときは必ずこの点にこだわります。
一般の方は③がとても重要だと考えることが多いのですが、実はそこまで重要ではありません。
警察内の事務手続の問題に過ぎず、被害届が取下げられても事件がなかったことになるわけではないからです。
ただし『親告罪』と呼ばれる一部の罪は別です。
名誉毀損や器物損壊は告訴がなければ刑事裁判を提起できないため、これらの罪では告訴取消がなされることで不起訴が確定することになります。
④は「この示談で決めたこと以外にはお互いに請求するものもされるものもないことを確認する」という条項です。
民事上の効果のみ有するという点で①~③とは少し性質が異なります。
とはいえ紛争を終局的に解決させ、追加の損害賠償請求を防ぐという点においてとても重要な意味を持ちます。
この4つ以外にも、例えば示談金を分割払いするときは支払いが遅れた場合の対処を決めておかねば困った事態が生じることもあります。
事案によっては加害者の行動範囲を制限したりSNSの利用を禁じたりする条項を入れることもあります。
これは実際にあった事例ですが、一度法律相談に来た加害者が弁護士費用を惜しんで自分で被害者と交渉してお金を払ってしまったことがありました。
その後警察に行って「示談した」と報告したのですが、「示談書がないではないか」と言われ、結局弁護士に示談交渉を依頼することになりました。
示談はお金を払って終わりというものではありませんので、よくよく注意が必要です。
(『蒼生 2021年4月号』掲載記事)