弁護士コラム

刑事示談交渉について②

2021.02.08

前回は刑事示談交渉の概要と加害者側の視点に立ったときの示談の効果についてお話ししました。
今回は被害者側の視点から見た場合の話です。

加害者の方から示談の提案が出てきた場合(警察経由で「加害者が示談したいと言っているがどうする?」と言われることが多いです)、被害者には
「示談交渉自体を拒否する」
「とりあえず話を聞いてみる」
という選択肢が与えられます。

お金などほしくない
厳罰に処してくれればよい
たとえ弁護士であっても加害者側の人間と話をするのは嫌だ
ということであれば前者を選択することになります。この場合はそれで終わりです。

一方、後者を選択した場合は加害者側の話を聞いて、加害者側から支払ってもらう金額をいくらにするか、接近禁止等の条件を条項に加えてもらうかといった選択肢がさらに生まれることとなります。

個人的にはこの「選択肢が生まれること」にはそれなりに価値があると考えています。
絶対に示談はしないと結論が決まっているなら交渉は時間の無駄ですが、そうでなければ話をして加害者の考えや今後の対応を聞くことによって被害者の中で事件に一区切りつけられる可能性が出てくるからです。

また、犯罪に巻き込まれた人には何らかの被害が生じているはずですが、これを起訴前の示談交渉以外の方法で回復するのは困難です。
加害者からの示談の申出を断った場合、被害回復を図るには民事上の損害賠償請求訴訟を提起するしかありません。
そこでは被害者が積極的に被害の内容や経緯を法的に主張立証せねばならず、仮に勝訴判決を得ても強制執行をかけるには加害者の財産を具体的に特定する必要があります。
リスクやコストを考えるとこれはあまり現実的な手段とは言えないのです。

状況の有利不利もあります。
起訴されるか否か、どのような刑罰となるかが不確定の状態というのは加害者にとって時間的・精神的に不利な状況です。
つまり、この時期であれば被害者に有利な条件で交渉を進め、さほどの労力をかけることなく相応の示談金を受け取ることができるようになります。

私の実感として、示談の申し入れをすると9割以上の被害者は話を聞いてくれて、話を聞いてもらえれば95%ほどの割合で示談が成立しています。

次回は刑事示談交渉の中身に触れてみます。

(『蒼生 2021年1月号』掲載記事)