弁護士コラム

刑事示談交渉について①

2020.10.07

刑事事件の加害者となった場合、被害者との『示談』が問題となることがあります。

示談とは簡単に言うと「紛争を終結させるための当事者同士の約束」のことです。
ちなみに『示談』『和解』『合意』の違いについてもっともらしく語っているネット上の記事もありますが、大事なのは内容です。
呼び名にこだわってこれらを区別する実益はありません。

刑事事件の示談が成立した場合、通常は民事上・刑事上の二つの効果が発生することになります。

民事上の効果で一番大きな意味を持つのが
「その示談で取り決めたこと以外の請求ができなくなる」
というものです。

弁護士が示談を取りまとめる場合、治療費や慰謝料といった損害への賠償として一定額の支払いを取り決めるとともに、
「その他の債権債務がないことを確認する」
という債務不存在確認条項を入れます。
この条項によって後日の追加請求が封じられ、紛争の終局的解決が実現するのです

次に刑事上の効果について。

犯罪が発生した場合、まず警察が一次的な捜査を行い、その後事件を検察官に送致します(送検)。

検察官は警察から送られてきた資料を確認し、自らも事情聴取を行い、最終的に加害者を刑事裁判にかける(起訴)か否(不起訴)かを決めます。
この判断は、罪名、認否、事案の重大性、悪質性、被害の程度、処罰感情、前科前歴の有無等、あらゆる事情を総合的に考慮してなされます。
「示談の成否」もこの判断材料の一つです。

大怪我を負わせた傷害事件などでは示談が成立していても起訴は免れないということがありますが、痴漢・盗撮・強制わいせつ・器物損壊といった比較的軽微な事案で初犯なら示談成立によって不起訴となる可能性がグッと上がります。

このように、示談の成立は加害者側の視点に立った時に大きな意味を持つことになります。

後の損害賠償請求訴訟を抑止し、不起訴処分なら前科を回避することもできる。
被害届を出される前に示談がまとまれば前歴(刑事事件の被疑者として取調べを受けた履歴)がつくこともありません。

一方、被害者側の視点からしても示談が成立したことで得られる恩恵はあります。
一番わかりやすいのは「示談金が手に入ること」ですが、その本質を理解している人は案外少ないというのが実情です。

次回はそのあたりにもう少し踏み込んでみます。

(『蒼生 2020年10月号』掲載記事)