弁護士コラム

薬物事犯について②

2020.06.10

前回に引き続き薬物事犯のお話です。

 

実は日本は世界でも類を見ないほど違法薬物の使用率が低い国です。

例えば覚せい剤の生涯経験率を見るとアメリカやカナダは約5%、イギリスは約10%ですが日本は0.5%。

大麻だとドイツ、イタリア、イギリスが約20~30%、アメリカ、カナダ、フランスが約40~45%であるのに対して日本は1.4%。

これは島国で流通経路が制限されるという地理的条件に加えて、「覚せい剤やめますか、それとも人間やめますか」のTVCMを始めとする各種キャンペーンや社会の風潮、国民性等から違法薬物に触れる最初の心理的ハードルが高くなっていることも影響しているようです。

 

薬物事犯は再犯傾向が強い犯罪であり、刑罰による抑止には限界があるとも言われます。

この点については国によって明確に対応が分かれてきます。

 

例えば中国では社会的影響を与える犯罪には幅広く死刑が設定されており、違法薬物の密輸や密売の最高刑は死刑です。

これは厳罰化を進めることで薬物事犯を封じる姿勢の表れと言えるでしょう。

 

一方欧州では司法的対応より治療的対応を優先する国が目立ちます。

これは薬物使用者を厳しく罰するより治療を施して社会全体で支えるようにした方が再犯率の低下、就労率の向上、注射器の使い回しによるHIV感染のリスク低減等に繋がるとされているためです。

ポルトガルはかつてヘロインの蔓延が深刻化していましたが、薬物の所持や使用を基本的に非罰化する大規模な改革を行ったところ、薬物の使用が減少したそうです。

 

この二つの方針は考え方の違いです。

違法薬物を害悪として社会から排斥しようとするか、その存在を前提として社会で包み込むか。

歴史的社会的な土壌の違いもあり、単純に効果だけを見てどちらが優れていると言い切ることは困難です。

欧米の一部地域では大麻の合法化が進んでいますが、これはより危険性の強いコカインやLSDの拡大に手が付けられなくなり、多少マシな大麻を合法化することで被害を食い止めようという発想に基づくものでもあることには留意が必要でしょう。

 

今後日本でも大麻合法化の議論が進むと思われますが、違法薬物の実情を知ればそれまでとはまた異なる見方が可能になるかもしれません。

(『蒼生 2020年4月号』掲載記事)