弁護士コラム

認知症に対する法的備え(1)

2018.06.14

高齢化社会では認知症になった人の財産管理をどうすればよいかということが問題となります。

判断能力が低下した人の財産を守る制度としては「成年後見」というものがあります。
これは判断能力低下の程度に応じて「補助人」「保佐人」「成年後見人」といったサポートをする人を付けて、認知症に付け込んで財産を巻き上げようとする悪徳業者等から本人の財産を守ろうというものです。
未成年の子に対する保護者の役割と似ています。

後見には親族等から申立があったときに裁判所によって後見人が選任される「法定後見」と、将来自分の判断能力が低下したときに備えて予め後見人を選んでおく「任意後見」があります。

法定後見は、判断能力が低下してしまった後、親族等からの申立によって手続が開始します。
判断能力について診断した医師の診断書を裁判所に提出して、補助・補佐・後見のいずれに当たるのか判断してもらいます。

補助や補佐の場合、本人の判断能力がある程度残っているため、補助人・保佐人の同意がなければ借金をしたり不動産を処分したりできないようになります。

後見は本人の判断能力がないものとみなされた状態なので、後見人が財産管理を一手に担うことになります。

法定後見は、その申立をする時点で本人の判断能力が低下してしまっているわけですから、その開始に当たっていくつか問題点があります。

一つは「後見人を選べない」ということ。
申立時に候補者の希望を出すことはできますが、多くのケースで弁護士や司法書士といった法律に詳しい第三者が選任されます。
これは家族間のトラブルを防いで公平な立場から財産を管理させるためです。

もう一つは「本人に中途半端に判断能力が残っている場合に申立自体ができないことがある」ということ。
判断能力低下の程度が一番軽い「補助」の場合、補助開始の審判を行うには本人の同意が必要となります。
本人が「自分はまだしっかりしている!」と反抗したら申立自体ができないのです。

任意後見ならこれらの問題はクリアできますが、自分が認知症になった時の備えを早くからできる人というのは稀です。
また、任意後見であっても後見という制度の特質上、一定の問題は発生します。

次回は成年後見の問題点について触れてみます。

(『蒼生 2018年4月号』掲載記事)