弁護士コラム

弁護士が解説する刑事事件の流れ(6)~保釈その2~

2017.03.15

前回の「弁護士が解説する刑事事件の流れ(5)~保釈その1~」に引き続き、今回も「保釈」について解説します。
裁判所が保釈を認める決定を出した、というところから話を始めます。

保釈請求書を裁判所に提出して、保釈が認められると、大体次のような許可決定が出ます。

保釈許可決定
被告人 〇〇

被告人〇〇に対する〇〇事件について、弁護人〇〇から保釈の請求があったので、当裁判所は検察官の意見を聴いた上、以下のとおり決定する。

主文
被告人の保釈を許可する。
保証金額は金〇万円とする。
釈放後は、下記の指定条件を誠実に守らなければならない。これに違反したときは、保釈を取り消され、保証金も没取されることがある。

指定条件
被告人は、〇〇に居住しなければならない。住居を変更する必要ができたときは、書面で裁判所に申し出て許可を受けなければならない。
召喚を受けたときは、必ず定められた日時に出頭しなければならない。
逃げ隠れしたり、証拠隠滅と思われるような行為をしてはならない。
海外旅行または3日以上の旅行をする場合には、前もって裁判所に申し出て、許可を受けなければならない。
〇〇(被害者、共犯者等)とは、弁護人を介する場合を除いて、面会、電話、文書、電子メールその他いかなる方法によるとを問わず、一切接触してはならない。

大阪地方裁判所 裁判官 〇〇

保釈許可決定が出る場合、保釈保証金(保釈金)の金額も同時に定められます。
被告人の経済状況にもよりますが、100万~300万円程度が中心的な金額帯です。
これを納めないと、身柄は解放されません。
当たり前ですが、「分割払いするので先に身柄解放を……」と言うことはできません。
減額の申し入れはできますが、経済状況が厳しいならば普通は保釈申立の時点でこれについても言及しているはずです。
それを踏まえての決定となりますので、減額に力を注ぐより、指定された金額の工面に努める方がいいでしょう。

本人の預貯金で保釈保証金を用意できない場合、次のような手段を検討することになります。

①家族、親戚、知人、金融機関からの借入
②日本保釈支援協会等の立替機関の利用
③全弁協保釈保証書発行事業の利用

①は何も難しいことはないので、②と③についてのみ解説します。

②は、日本保釈支援協会等に保釈保証金の立替を申し込む方法です。
審査が通れば、弁護人の預り口座に立替金が送金され、それを保釈保証金に充てることになります。

この方法を使う場合の注意点としては、以下のようなものがあります。
・被告人以外の者が申し込みをしなくてはならない(被告人以外の申込者が、没取の場合のリスクを負う)
・手数料を支払わなくてはならない(中心的な金額帯で、2か月ごとに4万~8万円程度)
・審査を通れば必ず全額を立て替えてもらえるというわけではない(一部自己負担を求められることもある)

③は、全弁協に保釈保証書の発行を申し込む方法です。
審査が通り、裁判所が保釈保証書による代納を許可し、自己負担金(保証金額の10%)を預託すれば、保釈保証書が発行され、これを裁判所に提出することになります。

この方法を使う場合の注意点としては、以下のようなものがあります。
・申込時に収入や資産に関する資料を提出しなければならない
・担保機能が不十分であることを理由に、裁判所が代納を許可しないことがある
・自己負担金は必ず用意しなくてはならない(ただし、後日返還される)
・手数料を支払わなくてはならない(保証金額の2%)

保釈保証金を納付し、または保釈保証書を代納して保釈されたら、
絶対に指定条件を破ることがないよう細心の注意を払って生活してください。

・出頭日と再就職先の面接日が重なり、裁判所に連絡せずに出頭をすっぽかした
・自宅を指定住所としていたのに交際相手の家に入り浸っていた
・被害者が友人や家族で、謝罪ならいいだろうと気軽に連絡を取った

指定条件を守って生活し、そのまま刑事訴訟が終われば、判決がどうであれ、保釈保証金は全額返ってきます。
しかし、指定条件を破ると、上記のようなケースでも、保釈保証金は没取(没収)され、保釈は取り消されます

刑事訴訟の手続は本当に厳格です。
「転居のことを弁護士や裁判所に連絡するのをうっかり忘れていた」
「ちょっとした挨拶や、反省の態度を示すことくらいなら大丈夫かと思った」

といったぬるい言い訳は一切通用しない、くらいに厳しく考えてください。

次回は、「被告人勾留」「公判」について見ていきます。