弁護士コラム

未払い残業代請求の流れ(7)~残業代請求訴訟~

2016.08.18

前回の「未払い残業代請求の流れ(6)~労働審判のデメリット~」では、労働審判の問題点を確認しました。
今回は、労働審判との比較も含めて、「訴訟はどのような流れで進むか」ということを見ていきます。

労働審判で調停(和解)が成らず、どちらかから異議申立がなされた場合、残業代請求事件は訴訟に移行します。
もちろん、労働審判を経ずにいきなり訴訟提起することも可能です。

訴訟手続(第一審)の大まかな流れは次のようになります。

・原告(労働者)が「訴状」と証拠を裁判所に提出する。
・提訴の約1~3か月後に第1回期日が設定される。
・第1回期日までに相手方(会社)が「答弁書」を提出する。
・第1回期日で争点を確認し、「準備書面」提出等次回までの課題を確認する。
・争点が十分整理されるまで準備書面等の提出と期日を繰り返す。
・裁判所が和解を打診する。和解が成立すれば訴訟終了。
・和解が成立しそうになければ証人尋問、本人尋問を行う。
・裁判所が再度和解を打診する。和解が成立すれば訴訟終了。
・判決言渡し。いずれかが控訴すれば控訴審に移行。

「訴状」は「労働審判申立書」と似たようなものです。
専門家である弁護士が作成する場合、事案にもよりますが、「訴状」が10~30枚程度、「証拠」が20~50枚(5~10種類)程度となります。

「答弁書」は、訴状に対する最初の反論書面です。
ここで詳しい反論の内容を述べても構いませんが、「『原告の請求を棄却する』との判決を求める。具体的な反論は後日提出する準備書面で述べる。」等の簡素な記載にするのが一般的です。

「準備書面」は、原告被告それぞれの言い分を述べ、争点を明確化するための書面です。
要件事実という法律上のポイントを理解した上で、的確に争点を把握して、自己の主張を漏れなく補強し、相手方の主張の矛盾点や問題点を指摘して、裁判所の心証を自身に有利に導いていくことになります。

各期日で行われる手続は、実際のところかなり地味です。
刑事事件ならまだしも、弁護士ドラマでよくあるような丁々発止のやり取りが民事訴訟でなされることはまずありません。
事前に提出した準備書面の内容や和解の協議状況を確認して、次回までの準備事項を確認して、次回期日の日程調整をして終わりです。
代理人として弁護士が入っていれば、通常は書面で問題が整理されていくため、無駄なことをする必要がないのです。

ちなみに、一方が弁護士を入れずに争っている本人訴訟の事案だと、期日のやり取りが若干派手になります。
どういうことかというと、本人は大抵法律の素人ですから、書面の内容の内容も期日のやり取りも大体トンチンカンなことになります。
結果、不利な立場に追い込まれた本人がキレて、裁判所と相手方弁護士に怒鳴りたてることもあるということです。

残業代請求(未払い賃金請求事件)の場合、提訴から4~6か月も経てば争点は概ね整理されます。
争点が整理されて、裁判所がある程度心証を形成したら、裁判所は双方に和解の可能性を確認します。
必要な証拠が揃っていれば、請求額の50~80%程度の金額が和解のラインとして出てくることが多いです。

双方が和解に応じれば、清算条項等を入れた和解調書を作成して訴訟は終結します。
あとは、約束の期日に支払いがなされるのを待つだけです。

双方の歩み寄りが得られず、和解が成らないとなれば、必要に応じて尋問手続を行います。
多くの場合、原告側は労働者本人、被告側は会社代表者や原告の上司を尋問します。
1回の尋問は、こちら側の弁護士(主尋問)、相手側の弁護士(反対尋問)、裁判所(補充尋問)の順に行われます。
尋問手続が終われば裁判官が判決を書くための情報は全て揃うので、再度和解の勧試がなされます。
それでも和解が成立しなければ弁論は終結し、1~2か月後に判決言渡しとなります。

残業代請求訴訟は大体このような流れとなります。

次回は、「『和解(調停)』で終わった場合と『労働審判』『判決』で終わった場合の違い」についてです。