弁護士コラム

労基署は役に立たない?

2015.02.23

当事務所に寄せられる労働に関する相談で最も多いのは、残業代や歩合給の不払いです。
解雇や退職勧奨、セクハラ・パワハラ、その他職場環境に関する相談は、賃金の不払いの相談と比べると比率は低いですが、年間通じて一定数寄せられます。
会社が行政上のルールを守っているかといった相談が来ることはほとんどありません。

問題の性質ごとに適切な対処方法は変わり、弁護士に対応を任せるべきものもあれば、労働基準監督署(労基署)に相談すべきものもあります。
労基署は、その名のとおり、労働に関する基準が守られているかを監督する官公署です。
したがって、会社がルールを守っていない場合に、その是正を促し、ときには行政処分として必要な指導をすることが問題解決に資するようであれば、それは労基署にまず相談すべき事柄となります。

ネット社会が根付いて久しいためか、最近の依頼者はある程度情報を仕入れて、労基署にも相談に行った上で弁護士のところに相談に来られることが多いような気がします。
そういう場合に共通して耳にするのが、

「労基署に行ったが、『労基署では対応できない』と言われた。」
「労基署は何もしてくれないんですよね?」

といった声です。

冒頭で述べたように、労働問題の相談で一番多いのは給与・賃金の不払いに関する問題です。
無論、これも労基署の管轄する範疇の問題ではあるのですが、具体的に会社にその支払をさせるとなるとどうしても裁判所を通じた手続を取らねばならなくなるので、労基署はその部分には踏み込んできません(ただし、証拠が十分揃っていれば、その違反を取り締まるために動いてくれることはあります。)。
不当解雇や名ばかり管理職に関する問題は、その該当性の判断が難しいため、裁判所で結論が出たら動く、という対応を明言する労基署もあります。

別にこれは労基署が仕事をさぼっているというわけではなく、労基署は労働各法の違反行為取締を主な任務としているので、各従業員と会社との個別の民事上の問題については積極的に関わってこないというだけの話です。
ところが、労働者が問題とするのは労働者個人のトラブルがほとんどですので、労働者からすると

「労基署は労働者の問題に親身に対応してくれない」

となるのでしょう。

では、労基署に相談に行くのは無意味なのかというと、そういうわけではありません。
例えば、労基署を介して会社に警告を発してもらうことができて、それが経営者にとってプレッシャーとなり得るのであれば、それは個別の問題を解決するための交渉の後押しとなります。
労基署をお金を取られることはありませんので、念のため相談や違法行為の報告に行ってみるというスタンスでもよいでしょう。

事案に応じて、何が問題解決に適した手段なのかは変わってきます。
労基署が取り扱うべき問題を投げかければ労基署はきちんと動いてくれますので、そういった点も踏まえてうまく使っていくことが問題解決の近道となることもあります。