ピエール瀧、田口淳之介、田代まさし、沢尻エリカと2019年は薬物事犯での芸能人の逮捕が相次ぎました。
私が事務所を構える大阪は「ドライブスルーで覚せい剤が買える日本唯一の町」として有名な場所があり、覚せい剤の使用や所持は国選でもよく回ってくる事件の一つです。
薬物ごとに効果も規制法も異なるのですが、今回は『薬物事犯』として包括的な話をしてみたいと思います。
薬物事犯の特徴として挙げられるのは、被害者が存在しない犯罪だということです。
薬物事犯の規制法は具体的な『被害者』ではなく『健全な社会の安定維持』というものを保護法益としているのです。
世界史で習ったアヘン戦争のことを思い出してみれば少しイメージしやすくなるかもしれません。
それでも「なぜ違法薬物を使用してはいけないのか」ということを本質的に理解してもらうのは困難です。
健全な社会がどうの、暴力団の資金源がどうのという説明をしてもまず通じません。
薬物濫用で幻覚等による凶悪犯罪が、という話も駄目です。
そもそも違法薬物の使用歴のある人間が『薬物を原因として』凶悪犯罪を起こした例は実際にはほとんど存在せず、周囲に対する危険度や依存性で言えば覚せい剤や大麻より酒の方が上です。
薬物関係の被疑者には楽観的で物分かりがよく話が通じやすいという傾向があります。
一方で真摯な反省が窺えたことはほぼありません。
薬物事犯は再犯率の高さで知られていますが、それは中毒性の問題だけではなさそうです。
被害者が存在しない、つまり他人に迷惑をかけていないという意識が反省を阻害する一因となっているように思われます。
家族がいれば「家族に迷惑をかけた」と反省の端緒となることもあるのですが、家族がいなかったり疎遠だったりするとお手上げです。
留置場や刑務所での不自由な暮らし、社会的地位の没落といったところで身をもって学んでもらうしかありません。
違法薬物を自力で断ち切るのは困難です。
依存症からの脱却を支援する団体は存在しますが本人に支援を求める意思がなければそれ以上どうにもなりません。本当に悩ましい問題です。
何をどうすれば薬物事犯に関する問題を解決できるのか、次回は各種薬物の性質や諸外国の対応について少し掘り下げてみたいと思います。
(『蒼生 2020年1月号』掲載記事)