前回、「未払い残業代請求の流れ(4)~労働問題の裁判手続~」で、「労働審判」と「訴訟」に言及しました。
今回は、このうちの「労働審判」についてもう少し詳しく説明ししてみます。
労働審判手続の大まかな流れは次のようになります。
・申立人(大抵は労働者)が「労働審判手続申立書」を作成して、証拠等と併せて裁判所に提出する。
・申立から1~2か月くらいの日程で第1回期日が設定される。
・裁判所が相手方(大抵は使用者、会社)に呼出の連絡と「労働審判申立書」等の写しを送付する。
・第1回期日までに相手方が「答弁書」を提出する。
・第1回期日が開かれる。和解が成れば調停成立で終了。
・申立人、相手方が「補充書面」「追加証拠」を作成、提出する。
・第2回期日が開かれる。和解が成れば調停成立で終了。
・申立人、相手方が「補充書面」「追加証拠」を作成、提出する。
・第3回期日が開かれる。和解が成れば調停成立で終了。
・労働審判(結論)が言い渡される。異議がなければ確定、双方またはどちらかから異議が出れば訴訟に移行。
「労働審判申立書」というのは、申立人の主張等を記載した書面のことです。
一応決まった様式があり、その中の一部である「申立の原因(申立人の具体的な主張)」に限って説明すると、残業代を請求する場合なら、「こういうことがあって、○円の未払い残業代が発生しているので、相手方にその支払いを求める」という内容の文章になります。
絶対に記載しておかなければならないこと(要件事実)に加えて、審判官に自分の言い分を認めてもらうため、必要な事実を漏れなく無駄なくわかりやすく述べる必要があります。
また、言いたいことを言うだけでは主張は認めてもらえないので、自分の主張を裏付ける証拠を提出しなくてはなりません。
専門家である弁護士が作成する場合、事案にもよりますが、「申立書」が10~30枚程度、「証拠」が20~50枚(5~10種類)枚程度の分量になります。
「答弁書」は、「申立書」に対する相手方の反論書面です。
こちらも一定の様式がありますが、所謂「反論」に当たる「相手方の主張」として述べられる典型は、「未払い残業代請求の流れ(3)~裁判外での交渉開始~」でも述べた、「申立人(労働者)が主張するような残業はない」「残業代を既に払っている」「申立人(労働者)は残業代の支払対象者ではない」といったものです。
弁護士が作成する場合、反論の内容によりますが、「答弁書」が5~20枚程度、「証拠」が0~30枚(5~10種類)程度となります。
「第1回期日」では、審判官・審判員が、「申立書」「答弁書」の内容を踏まえて、申立人・相手方双方の本人から事情を聴取します。
裁判所によって対応は違いますが、申立人と相手方を交互に部屋に入れて話を聞くこともあれば、双方同席で順に話を聞くこともあります。
弁護士がついている場合、弁護士が補足説明等で口を挟むこともありますが、基本的には本人が勤務状況等を具体的に説明します。
双方から話を聞いたら、審判官は大まかな解決方針を立てて和解を提案してきます。
和解の条件は双方の主張反論の内容や証拠の有無や質によって変わってきます。
例えば、労働者側の証拠が十分足りていて会社側の反論が弱いと感じれば労働者の請求に近い金額を、労働者側の証拠が足りていなかったり会社側の反論に十分な根拠があると感じれば会社側の反論に近い金額を提示してきます。
和解が成立しやすくなるように、労働者と会社それぞれ異なる内容(それぞれに不利な心証)を伝えて譲歩させようとしてくることもあります。
これを受けて和解が成れば、労働審判は調停成立ということで終結します。
和解が成らなければ、約1か月後に第2回期日が指定されます。
そして似たような手続を繰り返して、第3回期日までに調停成立とならなければ、結論としての「労働審判」が下されます。
労働審判の結果に申立人・相手方のどちらも異議を述べなければ、その内容が確定します。
どちらか一方または双方から異議が出れば、通常の訴訟に移行し、また最初から審理が開始されることになります。
さて、前回記事でも触れましたが、労働審判の最大の特徴は「短期間で決着がつく」ということです。
通常の訴訟が平均1年程度かかることを考えると、労働審判は非常に魅力的な手続のように思えます。
現に、当事務所に法律相談に来られた方の中にも、
「労働審判っていう手続なら早く終わるんですよね、それでお願いしたいんですけど!」
と言ってこられる方が時折います。
ですが、うまいだけの話があるはずもなく、労働審判には相応のデメリットや制限があります。
次回は、「労働審判手続にはどのような問題点があるのか」ということを見ていきます。