法律相談や異業種交流会で
「先生の専門は何ですか?」
と聞かれることがよくあります。
病院であれば、「○○内科病院」「××眼科」等の科名が名前に入っていることが珍しくありません。
患者は、症状のある部位の科名がついた病院か総合病院に行けばよいので、非常にわかりやすいです。
ところが、法律事務所名に「交通事故」「離婚」等の名称が入っていることはまずありません。
その弁護士の専門・得意分野は、弁護士本人に直接聞くか、一部の弁護士会や得意分野を明記した各法律事務所のHP等を見ない限りわからないのです。
そのようになっている理由の1つに、日弁連が
「弁護士は専門性を謳ってはならない」
と言うルールを定めていることが挙げられます。
もう少し説明すると、
「現状では専門性を担保する認定制度等がなく、自称専門家が出てくると国民の信頼を損なうおそれがあるので『専門』という表示は控えるのが望ましい」
とされています。
その一方で、
「『得意分野』という表現は弁護士の主観に過ぎず、国民もそう考えるはずなので用いてもよい。」
「とはいえ、得意でないものを『得意』と言うと事実に反するおそれがあるので、豊富な経験を有しない分野は『積極的に取り組んでいる分野』『関心のある分野』と表現するのが正確かつ誠実である。」
としています。
日弁連の言いたいこともわからないではないですが、個人的には、世の中のニーズを無視した時代遅れな考え方では、と感じます。
ヤフーやグーグルのキーワード検索の内容を見てみれば、弁護士を探している人の多くが専門性に関心を持ち、『専門』という言葉を入れて検索していることが分かります。
こういった依頼者の要望に応えられない枠組みを作ってしまうのは如何なものか、と。
ただ、これまでの法律事務所は何でも扱う総合病院的な事務所が多かったのですが、大都市では特定の分野に特化して生き残りを図るところも出てきています。
こういった流れの中で、先のルールもこれから少しずつ変わっていくのかもしれません。
冒頭に返って、私が『専門』を聞かれたときは、
「今うちの事務所で取扱が多いのは交通事故、労働問題、不動産トラブルといったところです。」
と答えています。
問いに対する正面からの回答になっていませんが、大体これで納得してもらっています。
(『蒼生 2016年1月号』掲載記事)